本作は、「2021年本屋大賞」を受賞した、町田そのこの同名小説(中央公論新社)が原作。ほかのクジラが聞き取れない高い周波数(52ヘルツ)で鳴くため、たくさんの仲間がいるはずなのに、何も届かない、何も届けられない孤独を表している。
自分の人生を家族に搾取されてきた三島貴瑚(杉咲)は、ある痛みを抱えて海辺の街に越してきた。そこで母親から「ムシ」と呼ばれる、声を発することのできない少年と出会う。愛を欲し、誰にも届かない声で泣く孤独な魂たちの出会いが生む、切なる愛の物語。
精神的にも肉体的にもギリギリの状態だった貴瑚と出会い、彼女を救い出そうと動き出す塾講師で、トランスジェンダーの岡田安吾を演じる志尊は「無事完成できたことはうれしいですし、見ていただくのもうれしいのですが、宣伝活動をしている中で、この作品をどう説明したらいいんだろうという思いがありました。『ぜひ見てね!』と安易にも言えない部分があって」と葛藤を告白。「見ていやな気持ちを持つ人がいないと良いなという思いもあります。杉咲花を始め、皆でぶつかって、ときには苦しい思いをして作った作品なので、たくさんの人に見てもらえることが何より救いだなと思います」と伝えた。 主演の杉咲は「私たちは、この映画を撮り終えて完成したことに、やりきったと手放しで喜んでいません」ときっぱり。「きっと議論が起こると想像していますし、皆さまの声を真摯に受け止めたいという気持ちを持っています」と力を込めた。そして「時代のなかで乗り越えていく作品になってほしいと思っている。将来、この作品を見返したときに『まだこういう悲劇が描かれていた時代があったのだ』と思われてほしい。そのためにこの作品が作られたのではないか、と信じています」と願いを込めた。
続けて、会場を見わたした杉咲は「人の痛みをすべてわかることはできなくても、わからないことは無力ではないと思うんです。わからないから知りたいと思えるし、優しくしようと思える。共感できなくても隣にいられるし、大切なものを分けあえる。だからこそ、どうか諦めないで人と関わってほしいという映画のメッセージを大切に受け止めたいです。このメッセージを、私はきょう責任を持って届けにきた」と思いを伝えた。イベントには、小野花梨(25)、宮沢氷魚(29)、桑名桃季(10)、成島出監督も出席した。
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