原爆開発を主導した米物理学者を描き、アカデミー賞で作品賞など7部門を受賞した伝記映画「オッペンハイマー」の試写会が12日夜、広島市中区の映画館であった。上映後のトークイベントで、元広島市長の平岡敬(たかし)さん(96)は「原爆が作られる過程はあったが、広島の立場からすると、核兵器の恐ろしさが十分に描かれていない」と述べた。
第二次世界大戦中、原爆開発の「マンハッタン計画」を主導して「原爆の父」と呼ばれたロバート・オッペンハイマーの葛藤を、クリストファー・ノーラン監督が描いた。
29日の日本公開を控え、映画館「八丁座」であった試写会には、招待された市内の高校生や大学生ら約110人が参加。トークイベントには平岡さんの他、市内在住で米国出身の詩人、アーサー・ビナードさんと、映画監督の森達也さんも登壇した。ビナードさんは「核兵器開発に臨むオッペンハイマーの立ち位置に観客も立つことができるのは、広島と長崎の被害の実相が省かれているためだ」と評した。
崇徳高2年の山西希歩(のあ)さん(17)は「原爆実験を描いた映像や音響で怖さを感じた。世界に核兵器が数多くある現実を変えないといけないと思った」と述べた。
7日に試写を見た広島県原爆被害者団体協議会の箕牧智之(みまき・としゆき)理事長(81)は「21世紀の人類が歩むべき姿として、核軍縮・核不拡散に取り組む必要性を訴えているのではないか。核兵器廃絶を望む私たちにとって大きな追い風になる」と評価した。一方、「広島と長崎への原爆投下がもたらした被害が直接映し出されておらず残念だ」と指摘した。【根本佳奈】
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