「終わった後は、監督はじめスタッフさんに向かって『今週も楽しかったです』と必ずお伝えして帰る。そういう収録です」
漫画家・高橋留美子の初の連載作品にして大ヒットを果たした「うる星やつら」。1981~86年にTVアニメがオンエアされると、生命力が強く女好きな男子高校生・諸星あたる(古川登志夫)と宇宙からやってきたキュートな鬼族の女の子・ラム(平野文)、そして個性的な面々が織りなすラブコメディーで一世を風靡した。その「うる星やつら」が、時を経て再びTVアニメ化! かつて古川が演じたあたる役は神谷浩史だ。神谷にとっての「うる星やつら」とは? あたるとは? 原作の直撃世代だからこその熱いインタビューをおくる。
――「うる星やつら」への出演はどのように決まったのでしょうか。
「オーディションです。あたる役に決まった時はうれしかったですよ。新人の頃のように喜んでしまいました。『うる星やつら』は昔から大好きな作品ですから。この年齢になって、自分が声優ではない素人だった時代に、能動的に“楽しいな”と読んでいた作品が再びアニメ化して、それに出演できるなんて…。そういった作品と声優になってから連載が始まった作品とでは、自分自身の元々の関わり方がちょっと違っているんですよね」
――前のTVアニメもご覧になっていましたか?
「実家では、そもそもアニメをあまり見せてもらえなかったんです。僕がチャンネルを選ぶ“チャンネル権”があったのは、平日の19時から19時半。『うる星やつら』は19時半からのオンエアでしたから。その上、ラムちゃんがあんな格好(ビキニ姿)で出てくるから、親は“Hなアニメ”という印象を持っていたようなんです。僕自身も親からそう言われて、“子どもは見ちゃいけない”と思っていた。だから、アニメは母親がお風呂に入っている間に運がよければ見られる、みたいな感じでした」
――では、原作漫画を読まれていたのでしょうか?
「そうなんです。どちらかというと漫画の方が、僕にとって親和性があったというか…。お金さえあれば購入することができますから。とはいえ、子どもなのでそれほどお金はないんですけどね。ただ、小学生時代は、漫画を買いそろえるという習慣がなかったんです。大人になった今から考えると、すごく変な買い方をしていました。実は、高橋留美子先生の漫画ではじめてコミックスを買ったのは『めぞん一刻』。それも9巻をいきなり購入しました。中学生ぐらいになると、“買ってそろえる”感覚が根付いてきたので、お小遣いがある時に『うる星やつら』の単行本をまとめて買ったんです。たぶん、お年玉があった時じゃないかな」
――子ども時代と大人になってから、“あたる像”は変わりましたか?
「『うる星やつら』は小学生、中学生、高校生の時に読んでいましたが、実は作品もあたるもあんまり印象は変わっていません。同じ高橋先生作品でも、『めぞん一刻』は読む年代によって印象がまったく変わっているんです。子どもの頃は響子さんを“すごくすてきな人”と思っていたけれど、最近読むと、“ちょっとヤバいところもある人だなぁ”と思うように…(笑)。一方で、『うる星やつら』は僕にとって、ずっと楽しいおもちゃ箱みたいな作品。そして、あたるは楽しませてくれる登場人物の1人で、とりわけ頑張っている人といった印象です」
――前のTVアニメであたるを演じられた古川さんの演技は参考にされたのでしょうか。
「オーディションの時、『(古川さんが演じたあたるは)あまり気にしないでください』とスタッフさんから言っていただいたのですが、古川さんが演じるあたるは、もう僕のDNAに組み込まれてしまっているんです。“あたるってこういうふうにしゃべるでしょ”、“ラムってこういうふうにしゃべるでしょ”というものがありますよね。僕自身が演じる役ではないですけど、ラムちゃんは『うちは何とかだっちゃ』と話します。平野さん演じるラムちゃんの『うち』のあのアクセントは、現実には存在しないものなんです。このアクセントが変わってしまったら、日本語としては正しいのかもしれないけれど、ラムちゃんではなくなってしまう。『好きにやっていいよ』と言われつつも、正解はみんなの心の中にすでにあるんです。そういう(さまざまな意見から共通点を見い出して)最大公約数的なお芝居をやらなければという使命感は、今回のキャストみんなの中に、ある程度あるのだと思います」
――それはあたるも同じということですね。
「古川さんが演じていらっしゃった、あたるのあの自由さ。僕はもう、“あたるはそういうもんだ”と思ってアニメを見ていましたから、漫画を読んでいても、“こういうふうにしゃべるな”と、コマから音が出て、頭に浮かんじゃうんです。ただ、アニメーションとして作っていくために、あたるの気持ちを改めて整理をしていくと、そういった既存のイメージとの間に齟齬が出てくるんじゃないかと危惧している部分もあるんです。その時は、新しい絵に沿った形であたる像を作っていかなければいけないと思っています。僕らはやっぱり新しいものを作ろうとしているので」
――今回は、原作から厳選したエピソードを4クールにわたってアニメ化する形ですね。
「今回のアニメは、思ったよりテンポが速いと感じます。例えば、1話(10月13日放送)は372カットあるんです。通常、TVアニメは1話あたり300カット前後と言われています。カット数が多ければいいというものではないですが、テンポの良さを表すひとつの基準ではあると思います。そうしたテンポ感を必要なものと捉え、アプローチしています」
――アフレコはいかがですか?
「あっ、本当に『うる星やつら』をやってるんだ、夢じゃなかったんだ! そんな感じです。作品がどうやったら面白くできるかを考えて、しかもそれが好きな作品で…。コロナ対策で、一緒に収録をさせていただけるのはごく少人数ではありますけれど、充実感があります。終わった後は、監督はじめスタッフさんに向かって『今週も楽しかったです』と必ずお伝えして帰る。そういう収録です」
――上坂すみれさん演じるラムちゃんはいかがですか?
「本当にすごいと思いました。『うる星やつら』世代で、ある意味で厳しい耳を持っているはずの僕が聞いても、すごくラムちゃんなんです。すみぺ(上坂)とはアニメ『キャロル&チューズデイ』(2019年)でも相方の役で共演をしたことがあるものの、彼女のことはあまりよく知らなかったんですね。今回、改めて『こんな声で、こんなお芝居をする方なんだ』と思いました。それに、キャラクターデザインの浅野(直之)さんが描くラムちゃんがすごくかわいいんです。『世界的なアイコンになっているキャラクターを、今活躍している方々の才能を集めて作ったらこうなりました』というものを見せていただいている気がします」
――ファンへメッセージをお願いします!
「昭和の時代に爆発的な人気を呼んだ『うる星やつら』が、世界的なアイコンとして認知されているあのラムちゃんが登場するアニメーションが、この令和の時代に復活する。もうそれだけで事件です! ぜひ楽しみにお待ちいただければと思います!」
【プロフィール】
神谷浩史(かみや ひろし)
1月28日、千葉県生まれ。A型。10月8日スタートのアニメ「ブルーロック」(テレビ朝日系)にも出演。Kiramune Presents READING LIVE「魔法の呪文は ガン・マビ・レーテ」の10月15日昼・夜公演、22日と23日昼公演に出演。2ndフルアルバムの発売も決定している。
【作品情報】
「うる星やつら」
10月13日スタート
フジテレビほか
毎週木曜 深夜0:55~1:25
※10月13日は深夜1:45~2:15
タフで女好きな高校生のあたる(神谷)と、宇宙からやってきてあたるに熱烈なアプローチをする“鬼っ娘”ラム(上坂)を中心に描くドタバタラブコメディー。あたるの同級生・面堂(宮野真守)やカラス天狗の女王・クラマ姫(水樹奈々)など、個性的な“やつら”が登場する。
取材・文/仲川僚子 撮影/為広麻里 ヘアメイク/NOBU(HAPP’S.) スタイリング/村田友哉(SMB International.)
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